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さすらいの航海

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シュリーマンの冒険に胸躍らせても
天皇陵の発掘となると少なからぬ日本人が心理的な抵抗をおぼえるのではないかと思います。
20年まえに読んだ本のウロ覚えですから、現在もこのように言われているのかはわかりませんが
現在の考古学的研究からは、天皇陵とはいえない(年代が合致しない等)古墳も
「祭祀がおこなわれている限りは天皇家の墓」というのが宮内庁の見解、と書かれていました。

なんとなくは理解はできるような気はします。

では、祭祀をおこなう人がいなくなった墳墓は暴いていいのかと問えば
これも多くの日本人はそんなことはない、と感じるのではないかと思います。




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中央アジアの古代仏教遺跡は、多くの地域でその後イスラム化したこともあってか
そういった心理的な抵抗なく発掘されてきたようにも思えます。(別な理由もあります)
中央アジア地域で最大規模を誇るキジル石窟群(新疆ウイグル自治区)の第212窟壁画もそのひとつ。
航海と海の宝探しをモチーフとした壁画が描かれていたことから「航海者窟」と名づけられた壁画は
20世紀初頭にドイツ探検隊が切り取って持ち帰り、現在、壁面に残っているのは
天井の断片と両側壁の下部など全体の3分の1にも満たないものなのだそうです。

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略奪や盗掘、植民地支配下や戦争下といった非常時に国家により違法に持ち出された文化財は
いったい誰が所有すべきものなのか? もとあった国に返還すべきなのか?
思うに、それが信仰の対象であったときには信仰する人々のものでしょう。
しかし、それが信仰から離れて「文化財」という抽象的な存在になってしまうと
所有権をめぐる問題(「文化財返還問題」)は一筋縄ではいかなくなってしまいます。

「盗品博物館」「泥棒美術館」などと批判される博物館や美術館が
「過去は過去。 特定の国家ではなく、われわれは普遍的にあらゆる人類に奉仕する」
といった、歴史認識をカッコに括った超越的な論理で
返還要求を一切拒否する論理がもっともらしく耳に響いてしまうものです。

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「普遍的美術館」なんていう観念もまた、一種の宗教だと思います。
ただ、文化財の流失や劣化を防いだりといった効用を首肯してしまう僕も、その宗教の信者のひとりかもしれません。

ドイツに持ち帰られたこの壁画は、第二次世界大戦の空襲により永遠に失われてしまいました。

~福井県立美術館『スーパークローン文化財展』~


by dendoroubik | 2019-08-25 19:00 | 福井 | Trackback | Comments(0)