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垂井曳山まつり 攀鱗閣 『源平布引滝 実盛物語』

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実盛は日本史に登場する人物のなかで
もっともカッコいい男のひとりではないかと思います。
『平家物語』もわざわざ一章を割いたうえでその最期を

「錦の袂を会稽山に翻し今の斉藤別当実盛はその名を北国の巷に揚ぐとかや。
 朽ちもせぬ空しき名のみ留め置いて、骸は越路の末の塵となるこそ哀れなれ」

と哀惜を込めて描き出しています。

子供歌舞伎でしばしば『源平布引滝』のこの段は上演されますが
なぜこんなややこしくてグロテスクな物語を演るのか
不思議に思われる方も多いのではないかと思います。
垂井でも前後関係を理解させるためにマンガまで配られていました。

でも、それで話は理解できたとしても・・・

ここで描かれる以上に実盛がカッコいい男だ
という前提を抜きに見ると、やっぱりこれを上演する意味は理解できない
と思うのですがいかがなものでしょうか・・・?




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百姓の九郎助と孫の太郎吉は琵琶湖に魚を捕りに行き
そこで白い旗を握って離さない女の腕を発見。
「おらが見つけた!」と太郎吉は自慢げですが
のちにその腕が自分の母、小万のものであることを知ることに・・・

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そこへやってきたのが、平家方の詮議の者、斉藤実盛と瀬尾十郎。
九郎助の家には、討死した木曾義賢の子を宿した葵御前が匿われており
彼女が生む子が男なら殺せ・・・という命を受けてきたのです。

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九郎助が苦し紛れに錦にくるんで差し出したのは、赤ん坊ではなく
さきほど九郎助と太郎吉が琵琶湖湖畔で見つけた腕。

嘲笑う瀬尾をなだめる実盛。

実は平家方に白旗を渡すまいと小万の腕を切ったのは他ならぬ実盛。
腕を見てハッと気づいて咄嗟に機転を利かせ
出鱈目な中国の故事を持ち出したりしながら
世の中にはこういう不思議なことも起こり得ると言いくるめてしまいます。

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言いくるめられてしぶしぶ帰る瀬尾・・・実は隠れて様子を伺っています。

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残った実盛が語ったのは次のような物語です。

清盛の三男、宗盛が竹生島詣に御座船で遊覧中のこと。
実盛は溺れそうになっていたひとり女性を助けます。

これが太郎吉の母、小万。

平治の乱の後、源氏再興を願う源義朝の弟、木曾義賢。
帝より源氏の象徴白旗を賜りますが、清盛はこれを許さず
平家への忠誠を誓うよう遣いをやって迫りますが
義賢は拒絶し却ってその遣いを斬ってしまいます。
逃げ落ちる際にその白旗を託したのが実盛の救った小万なのですが
宗盛の側近たちは「源氏の白旗か」と奪おうとします。

命に代えても白旗を離さないと義賢に誓った小万。

実盛は義朝滅亡後、関東に落ち延びて平氏に仕えますが
保元、平治の乱の後、その滅亡まで義朝の忠実な武将。
義朝の子、義平に討ち取られた義賢にも仕えたことがあり
その旧恩も忘れていないという複雑な過去をもっています。
義朝の子、頼朝が挙兵した後も平氏に留まりつづけることになりますが
旧恩を忘れぬその心情から平氏に白旗を渡すわけにはいかないと
白旗を離さぬ小万の腕を刀で斬ってしまったのでした。

実盛は太郎吉にとっては親の仇ということになります。

小万の死骸に腕をくっつけると生き返って語り出す
・・・というグロテスクなシーンは今回はありませんでしたが
彼女は九郎助の本当の子ではなく捨て子で平家一門の誰かの娘
・・・ということがわからないと話が繋がらないので付記しておきます(笑)

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そのうちに葵御前が産気づきます。
実盛は小万の握っていた白旗を飾って安産を祈ります。

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祈る実盛と気になって産室を覗こうとする太郎吉。
それを連れ戻す実盛の様子が笑いを誘います。

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葵御前が産んだのは男の子・・・のちの木曾義仲。

義賢や葵御前を匿った源氏のシンパ九郎助は孫の太郎吉を
その家来にして欲しいというのですが小万は平氏のさる人物の娘
その子、太郎吉も平氏の血をひく者ですから家来にはできない
・・・と葵御前はこれをきっぱりと拒みます。
平家方の血を引くとはいえ、功を立てたなら取り立てよう、とも。


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・・・とそこに現れたのは、さきほど帰ったと見せかけた瀬尾十郎。
蔭で事情を聞いていて小万のことをののしったり悪態をつきます。

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小万が捨てられていたときに傍に置かれていた刀
・・・とはつまり親の形見の刀で、怒った太郎吉は瀬尾を刺します。

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いかに老齢とはいえ年端のいかない幼児の太郎吉に斬られる瀬尾ではないはず。

瀬尾が述懐するところによれば実は小万は瀬尾が捨てた娘。
形見の刀「金刺」を見てそのことに気づいた瀬尾は
手柄を立てさせるために太郎吉を怒らせ、わざと刺されたのです。

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瀬尾は太郎吉に手伝わせて自分で自分の首を切り死んでゆきます・・・

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この功により太郎吉は生まれたばかりの義仲の一の家臣となることが許され
名も手塚太郎光盛と改めていっぱしの侍・・・

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母の仇・・・と実盛に迫りますが
太郎吉はまだ実盛に鼻をチンとかんでもらうような幼子。

何十年かして太郎吉が一人前の武士となった暁には
顔がわかるよう白髪を染めて若やいだ出で立ち闘うから
見つけて討ち取りなさい・・・

実盛が語るそのときの戦場の様子は『平家物語』の「実盛最後」そのままです。

寿永2年(1183年)実盛は維盛らとともに
義仲追討のため出陣しますが加賀国篠原の戦いで大敗。
味方が総崩れとなる中、実盛は老齢の身を押して奮戦し
ついに義仲の部将、手塚太郎光盛に討ち取られます。
首実検で誰だかがわからなかった首を池で洗わせたところ
墨で染めていた白髪があらわれまさしく実盛その人。

かつての命の恩人を討ち取ってしまったことを知った義仲は
人目はばからず涙にむせんだといいます・・・

Commented by ei5184 at 2017-05-29 12:17
昨年の顔見世では斎藤別当実盛を愛之助が演じていました。
何度か上演されていましたので、多少は馴染ができました(笑)
子どもの実盛、瀬尾十郎、面白いでしょうね!
Commented by dendoroubik at 2017-05-29 14:05
☆eiさん

最初見たときには この話のどこを楽しめばいいのか
さっぱりわかりませんでした(笑)
実盛がスーパーヒーローだった時代につくられ
観客が平家物語を知っているという背景があって
はじめて成り立つ物語なのかなと思います
実盛よりも愛之助の方が人気がある時代には
あんまり面白くないストーリーと映るかもしれませんね

長浜と今回垂井で見ましたが
どちらも実盛役の男の子がとてもよく
ウケていたのはやっぱり太郎吉
これはやっぱり子供に限ると思います(笑)
by dendoroubik | 2017-05-29 08:22 | ◇垂井曳山祭 | Trackback | Comments(2)