2016年 05月 24日
小松お旅まつり 2016 その3

西 町の外題は「辰巳用水命光輝 稲葉左近館之場」
たつみようすいいのちのかがやき いなばさこんやかたのば
石田寛人氏による新作歌舞伎で、2007年のお旅まつりで十文字町が
「辰巳用水後日誉」という外題で上演していたものの再演なのだそうです。
主人公の板屋兵四郎は実在の人物で、小松出身の加賀藩の天才的土木技師。
奥能登白米の千枚田の灌漑や、金沢辰巳用水の開削でその名を知られていますが、
伝記的な事実は乏しく、
一説には工事の機密漏洩を 危惧した藩によって暗殺された、ともいわれています。
この物語では、あっと驚く奇想天外な結末が・・・

加賀藩三代藩主前田利常の命により着手された辰巳用水は
開削の目的は田畑を潤し、大火災に備える防火用水を確保すること。
その完成に金沢の町は沸き返りますが、一方では堀に水を満たす ことで
金沢城の防衛力の強化する・・・という軍事目的もありました。

藩内では、この軍事機密の漏洩を怖れて、請負人板屋兵四郎 抹殺すべしの意見がつよく、
板屋の才を見出して重用した稲葉左近も、藩論に抗し切れず

捕縛しようとするも、 行方をくらました兵四郎が
逃げ込んできていないかを確かめるために
稲葉館へ訪ねて きた工事検分役村田但馬。
そこへ女中小梅が大きな葛籠を 担いで帰ってきます。
御用でお城へあがった際、藩の役人から
稲葉の家で預かるように命令されたのだといいます。
その中身は辰巳用水に関するもの・・・

兵四郎の行方を尋ねられてもわからない小梅。
義太夫に尋ねてみます・・・
兵四郎さんやったら
さっき材木町さんの芝居みてはったけど
そのあと どこ行かはったかは わからんなあ
お客さんに訊いてみはったら・・・?
お客さま ご存じですか~?
知らん~(笑)
小松お旅まつりでは、しばしば
観客とのこういう掛け合いがあります。
加賀の女は器量よし。
この小梅とて捨てたものではござりませんぞ
・・・というセリフなんかもありました(笑)

板屋詮議のため村田は葛籠の中身をを改めたいと言い出しますが
梅鉢紋にしめ縄のついているものを、おいそれと開けるわけにはいかない
・・・と小梅はきっぱりと断ります。
さすがに村田もこれ以上踏み込めず、苦々しげにその場を去ります。

鬱々と気の晴れぬ父を慰めるために、舞を舞う稲葉の娘常盤。
仏御前が清盛の前で舞ったという舞
という前置きをして舞うのですが、これも楽屋オチで、
4年まえに西町、7年まえに龍助町が同じ石田寛人氏の手になる新作歌舞伎を上演し
このなかで仏御前が清盛のまえで、舞を舞うシーンがありました。

小松のファンは「ああ、あの舞か」・・・とピンとくるようになっているのですね。

常盤は、実は兵四郎と恋仲で、お腹に彼の子を宿しているのでした。

ふたたび稲葉館を訪れ、しめ縄を切って葛篭の中を見せよ
と稲葉と詰め寄っているところへ、兵四郎の母お蕗が現れます。
兵四郎が逃亡したと書かれた町の高札を 見て
逃げ隠れするような息子ではないと訴えに来たのでした。

なぜなら 兵四郎の父は豊臣の家臣。
城普請をするときには 帰れぬ身と思い定めよ
そう言い聞かされていた兵四郎が逃げ隠れするはずがない・・・

とはいえ兵四郎がいないのは事実。
卑怯でないというのなら、ここへ出せ。
村田の難詰に窮したお蕗は、命にかけて息子の潔白を証明 しようと
短刀で自分の胸を突いて自害を図ります。
・・・と、その時、一発の銃声。
玉が命中し、その場にもんどりうつ村田。

狙い違わず仕留めたり
南蛮渡来の懐鉄砲 覚えたか!
撃ったのは、母の自害を見て、思わず葛籠から飛び出したのは兵四郎。

母に詫びる平四郎。

辰巳用水の完成 祝着
逃げ隠れせずにいた息子を、誇りに思うと母。

憎っくき村田にとどめをさそうとしたそのとき・・・

ヤアヤア 板屋兵四郎 しばらく待て
現れいでたる加賀百万石の御大将 利常公。
兵四郎の母蕗
子を信じて命投げ出すその方
まさに烈女というべし
利常 感服 感服
その利常に瀕死の村田が意外なことを訴えます。
いま兵四郎を殺せば 幕府に二心ありと疑われるは必定
生かして幕府に差し出せば 徳川前田両家の和平が成る
自分が兵四郎を捕まえようとしたのは
殺すためではなかったのだ
これを聞いた利常公・・・
徳川幕府との対決路線に別れを告げ、これからは文治学問を督励する
駆け引きのために兵四郎を幕府に渡すことはしないしもちろん殺しもしない
惜しみて余りある才は 民生に役立てるよう
常磐のお腹にいる子供は小松の西町あたりに預け(笑)板屋家を継がせよ
自分は小松に城を建て芸術学問を愛でながら隠棲するつもりだ・・・・
利常のさばきを聴いて、村田も蕗も満足して息を引き取ります・・・

餞別に利常からロザリオを贈られる兵四郎。

早や別れのとき。
せめてもと利常のはからいで、金石湊へ向かう駕籠は二人乗り。

この世の縁は薄くとも
三世の契りと兵四郎
渡る南の十字星
十字の神の導きに・・・

西町の役者は3年生と4年生、すべて女の子。

役者はもちろん、義太夫三味線振付に至るまで
すべて小松の方々によってつくられたのだそうです。
役者たちも魅力的で、内容も小松度100%の楽しい芝居でした。

馴染みのない物語であるためか、やや説明が長く
何度か観ていると筋がわかって、もっと面白みが増してくるのかもしれませんね。