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伊庭の坂下し祭

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伊庭の祭りは 一度は 見やれ  男肝つく 坂下し
あれを 見やんせ あれ二本松 神輿おどらす谷の底

「派手なところのない祭りやさかい」と地元の方がちょっと自嘲気味に語られるように
山から御輿を引きずり下すこの行事は、写真で見る限りとても地味な印象を受けます。 
煌びやかな衣装や装飾、華やかな踊りなんかのない無骨な坂下し・・・
いままで見物に行こうと思わなかったのは、そんな先入観のせいもあります。

ところが実際にこれを見てみると、なんとも感動的な祭りなのでした。 

男たちが、断崖絶壁といっても決してオーバーではない急斜面から
重量4~500キロの御輿を引きずり下す(「担ぎ下す」ではなく、文字通り「引きずり下す」のです)
のを眺める見物人は皆一様に「なんでこんな危険でしんどいことを800年以上も毎年つづけてきたのか・・・?」 
・・・という理不尽な思いを抱いてしまうはずです。 
それでも見ているうちに手に汗握って、応援せずにはいられなくなり
見事、地上へ下された瞬間にはわれを忘れて喝采を送っている自分に気づきます。
 そのときにはもう「なんでこんなことを?」という疑問は氷解して
これはやはりこんなふうにおこなわれてこなければならなかったし、
これからも同じようにつづけていかなければならない・・・そう得心しているはずです。




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「坂下し祭」(織峰三神社降神祭、県無形文化財)は5月4日におこなわれる大浜神社、望湖神社、繖峰三神社の春祭り。 

舞台となるのは繖山(きぬがさやま)。最高峰は432.9mの山ですが
山腹にある繖峰三神社(さんぽうさんじんじゃ)から麓にある大鳥居までの高低差は、約170m。 
約500mの道程を御輿3基が引き降ろされます。
高さ170mで行程500mというのは、かなりの急峻な山登りです。 
手をつかずには登れない場所もいくつかあり、なかにはほぼ90度・・・垂直の切り立った崖もあります。
山上の神を御輿に遷し、里まで降ろす・・・というこの神事は
日吉大社の山王祭「牛の神事」の影響を受けて、いまから約800年まえにはじめられたものだといいます。
「牛の神事」の御輿下しも大迫力ですが、坂本の八王子山の最大傾斜は45度。 
おそらくこれは御輿を担ぎ降ろせる限界の角度だと思うのですが、繖山にはそれ以上の傾斜をもつ坂がいくつもあります。
 ですので、担ぎ下すことは不可能。 引きずり降下す・・・という手段がとられます。

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それにしても「牛の神事」を真似てこの祭りをはじめた人びとは 
「断崖絶壁の多い繖山ではムリだ!」 とは考えなかったのでしょうか? 
急峻な山を御輿で下る・・・ということじたいが現代人には心情的に理解しがたいところがあるのですが
担ぐことさえできない急坂を綱で引きあげる工夫までしておこなわなければならない
のっぴきならない理由があったのでしょうね。

坂下しのコースのすぐ脇に、横穴式の古墳があります。

繖山山系には後期古墳が多く、とくにの北側の猪子山には100基以上の古墳が点在するそうです。 
山王祭のおこなわれる坂本も宇佐山にかけて1000基以上の後期古墳があるそうで
ふたつの坂下しのあいだには渡来人たちの子孫の共通した「先祖の記憶」の反映のようなものがあるのかもしれません。 

(ただの妄想です・・・) 

どうしてもこの山で坂下しをしなければならなかった理由は、いまとなっては知りようもありませんが
古代人の記憶に連なる信仰に裏打ちされたものであることはまちがいないように思います。

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祭神の三ノ宮権現、八王子権現、二ノ宮権現の分霊をそれぞれ御輿に遷し、この順で引きずり下ろされます。

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御輿は前日の3日に、繖峰三神社まで担ぎあげられます。 
下すのもたいへんですが、あげるのも並大抵じゃないでしょうね。 
ただ、あげるときは若衆以外の人手も借りるので、下すよりは楽なんだそうです。

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紋付袴の男性が手にしているのは「ケンサキ」 (剣先?)と呼ばれるもので
御輿が谷に転落したり、大雨なんかでどうしても坂下しができなくなってしまったときに
これに分霊を遷し里まで下すためのものだそうです。

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実際、坂下しの途中に御輿が谷底へ落ちてしまったり、不幸にして亡くなった方もおられるみたいです。 
「こないだ(亡くなった方の)五十回忌があったなあ・・・」と警備役を務めているおやじさんが話していました。 
事故はいくつかあったらしく、御輿もろとも転落した青年が偶然、岩と岩のあいだにはさまって
一命をとりとめたその場所が「ちょうどこのへんや。この岩」・・・と教えてくれました。 
話してくれたおやじさんも、若いときに脛から骨が飛び出す大怪我を負ったことがあるそうです。

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うしろで綱を操る若衆は「サル」(猿?)と呼ばれます。

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数年まえには、取材に来ていた滋賀県の某TV局が事故に巻き込まれたこともあるそうです。 
勢い余って転落してきた若衆に突き飛ばされる格好で谷へ転落。 
10年がかりで裁判がおこなわれたそうです。 

まあ、これは個人的な意見ですが・・・
祭で見物人が怪我を負うのは100%自己責任だと思います。  
危険を承知の祭りですから、裁判なんてもっての他。 
まして、これは「見物」じゃなくて「取材」でしょう? 
後ろにいる見物客への配慮もなく、ズケズケと踏み込む「特権」を行使しながら
いざというときには一般人に戻って訴訟をおこしてしまうメンタリティが僕には理解できません。 
(労災訴訟なら理解できなくもありません・・・) 

横にいたK新聞の記者・Yさんも 「同じ報道人として恥ずかしい・・・」とおっしゃってました。
ときどき、滋賀県内のお祭りでお見かけしますが
その記者の方の取材姿勢は、とても誠実で、まわりへの配慮も忘れておられません。

その放送局は取材に来てませんでした。

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 ヨイトコセーノ ソーレ!

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山腹の繖峰三神社を出発してからおよそ3時間。 まもなく地上が見えてきます。

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眼下に里が見えてくると、「台懸岩」と「屏風岩」、最大の難所といわれる「二本松」が待ち構えています。

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「屏風岩」は高さ2mほどの垂直の一枚岩。 「二本松」は高さ6mもある切り立った崖です。

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ふたつの難所には見物客も多く、若衆たちもおのずと気合いが入ります。

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御輿の先頭に載っているのは「初山」と呼ばれる、今年はじめて「坂下し」に参加する16歳の少年。
このまま崖を滑降します。 
まわりで支える先輩たちへの信頼がなければ、とてもできないことですね。 
まわりの先輩たちにしても、ここで「初山」にケガでもさせようものなら
何百年もつづいた先祖たちの行いを途絶えさせかねないことをわかっていますので
文字通り、命がけで「初山」を守ります。 

伊庭のイニシエーション・・・みたいなものでしょうか。

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跳んだ!
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見事成功!

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大鳥居まで戻ってきた御輿は、氏子や見物客の万来の祝福を受けます。 とても感動的なシーンです。

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四人の稚児たちが見守っています・・・

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すぐさま、御輿は若衆たちに担ぎあげられ、御旅所に据えられます。

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伊庭の祭りは 一度は 見やれ! 

スリルと感動は保障します。
  
もし行こうという方がおられるなら、トレッキングシューズを着用されることをお薦めすます。 
僕はしばらくは行かないと思います、なぜなら・・・体力的にちょっとキツい(笑)

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「坂下し」だけが着目されていますが、もともとこの祭りは伊庭八郷の祭りで
いまでも坂下しのあとに大浜神社で「競供」という、これもまた興味深い行事がおこなわれています。 
今回は見逃しましたが、これもまた見てみたいものです。
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Commented by うずら at 2012-05-10 20:32 x
伊庭に行ってはったんですね!
面白いなぁ~ それこそ、ニュースで見るのはほんの一部分、
こういう風に、見せられると、すごくよくわかりますね。
私も、こんなとこ行けないって、頭から思ってましたけど、
意外に、カメラをかかえた女性もいたり・・・
いや、やっぱり、よう行かんわ~(苦笑)
観音寺城跡を登った時の記憶がね・・・
でも、岩とか山の高さとか、すごくよくわかる写真です。
ありがとうございました~
Commented by dendoroubik at 2012-05-11 00:17
☆うずらさん

坂下しの写真はいろんなとこで見て「なんだか つまらなそうだなあ」と思ってました^_^;
実は当日の朝も あんまり気がすすまず 止めようかな…と思っていたくらいです
現地でまず驚いたのは 坂の傾斜
祭りがはじまって胸を打たれたのは チームワークのすばらしさ

このふたつは是非とも伝えたくて ついつい写真も文章も いつもより長くなってしまいました^-^
by dendoroubik | 2012-05-09 18:00 | ◆近江の祭 湖東 | Trackback | Comments(2)