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天領黒島

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町にも「命数」というものがあるのかもしれません。

命数が尽きて、そこで止まった時間が自分の過去の記憶に重なると「郷愁」
それよりも以前だと「失われた日本」といったようなものをそれぞれ感じさせられるものなのでしょう。

この美容室は、あるときを境に時間が止まっています。
(営業はされているようでしたけれど)
それがいつなのかはわかりませんが、おそらく「郷愁」よりも、もう少し先・・・




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北陸祭り旅の途中、その夜見る予定の祭りまで時間がたっぷりありましたので
ちょっと寄り道をして前回の能登半島めぐりでは立ち寄ることのできなかった
輪島市門前町の黒島へ立ち寄ってみました。(重要伝統的建造物群保存地区)

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海沿いの狭隘な土地に南北約1キロにわったってひろがる黒屋根瓦に板壁の伝統的家屋の統一感のある町並みが
江戸時代に幕府の天領となり北前船の廻船業で賑わった村の栄華をしのばせます。

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あまりにも統一感がありすぎてまるで映画のセットのようにすら思える町並みは
それでもやはり、どこか雪寂びた佇まいがありそれが書割とはちがう、幾星霜を経た証となっています・・・

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黒島集落が形成されたのは16世紀はじめといわれ
後期には廻船業がおこり、以降、多くの船問屋が創業。
江戸後期から明治中期にかけての北前船の興隆にともない
船主や船頭、水主の居住地として全盛を極めます。

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江戸時代中期には150戸ほどだった町並みは、明治前期には500戸を越えていたといわれます。

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明治も中ごろになると、陸上の交通網が発達し
運輸の主役は海上から陸上へと移り変わって北前船は衰退。

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廻船業の需要が減少の一途を辿ったころが
この村の「命数」の尽きたときといえるかもしれません。

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黒島の代表的な廻船業者のひとつ「角海家」

2007年の能登半島地震により黒島地区286軒の家屋のうち98軒が半全壊。
かつての有力廻船問屋、角屋の屋敷も全壊し
それまでお住まいだった角海(かどみ)家の方々もあまりの惨状に修理を諦められて輪島市に寄贈。
復原工事ののち平成23年から一般公開されています。

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旧角海家住宅の望楼からの外浦。

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高岡市出身の作家・堀田善衛に祖父の代まで廻船業を営んでいた実家のことを描いた
『鶴のいた庭』という短編小説があります。
望楼で廻船の帰帆を待ち、報告するだけが仕事でひねもす海と空を眺めているうちに
明日の天気はもちろんのこと遠く北海道の天候までズバリ言い当てる能力を身に着けた男が登場します。

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ボーッとしているだけが仕事なんてなんて羨ましい境遇だと思いながら読みすすむと
もし見逃したり見誤ったりしたなら夜逃げも覚悟しなければならない厳しい仕事とありました。

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望楼の見張り番の特殊能力の話も想像を絶しますが
角海家から輪島市に寄贈されて展示されている家財道具の数々も
ひとつひとつの高価なことと、数の夥しさで見る者を圧倒します。
まるで博物館・・・

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角海家の廻船が新潟沖で難破した船を救い
後日、その船主からお礼に贈られたという仏壇・・・

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時間が止まったような海辺の集落は
僕の貧弱な想像力の及ばないような、しかし確かにあった「時代」を垣間見せてくれました・・・


Commented by ei5184 at 2016-10-01 08:53
写欲が湧き出て来る様な景色ですね!
と、いうと叱られるのかもしれませんが、
これは一度訪ねてみたいですね~
Commented by dendoroubik at 2016-10-01 09:28
☆eiさん

電柱とアスファルト以外 ジャマな看板ひとつないなんて珍しいですね~
昔はそれがふつうだったんでしょうけれど
俗っぽい景色に慣れた目には かえってつくりものめいで見えたほどです(笑)

總持寺祖院や間垣の里にも近いので こちらもぜひ!
Commented by kisaji38 at 2016-10-10 23:57
青空と海と路地と統一感のある街並みと・・
しばしうっとり見入ってしまいました。
一度行ってみたいです。
Commented by dendoroubik at 2016-10-11 01:09
☆きさじさん

観光名所もたくさんありますけれど
能登の魅力は むしろ何もないところじゃないかなと思います
青空と海と山しかない・・・という欠如でなく
青空と海と山が溢れている・・・という豊穣を感じます
そこに突如現れる 幻のような村でした・・・
by dendoroubik | 2016-10-01 08:00 | ◇能登半島一周記 | Trackback | Comments(4)