2015年 01月 30日
北前船主の館 右近家
敦賀の先で国道8号線と分かれ、
越前海岸沿いに走る「越前・河野しおかぜライン」
たしか、以前は有料道路でした・・・。
終点の河野の交差点で、
北陸自動車道、南条インターから伸びる
国道305号線に取って変わられ、
三国、東尋坊まで越前海岸沿いの道はつづきます。
まもなく右手に、
由緒ありげな豪華な家屋が見えてきます。
北前船主として勇名を馳せた、右近家住宅。
山々が海に迫り、僅かな平地に、
家々が帯状に密集している・・・というのは、
越前海岸でお馴染みの光景ですが、
それらとはあきらかに異なり、
河野の集落は、右近家を中心にして、
まるで「小さな王国」のような佇まいを残しています。
古来、海と係りながら暮らしていた河野浦。
敦賀湾の鳥羽口の小さな入り江に開けた村、
という地理的条件から、江戸時代には、
その廻船の多くは「荷所船」として活躍。
「荷所船」というのは、松前蝦夷地に進出した近江商人が、
海産物を主に敦賀、小浜へ輸送するために、共同で雇った廻船。
江戸時代も半ばを過ぎ、日本海海運が飛躍的発展すると、
松前蝦夷地における近江商人の地位も低下。
彼らの「荷所船」として、運賃を糧にしていた人々のなかに、
徐々に買積み商いをおこなう者が出るようになります。
「運送業」から「商社」への転身
・・・といったところでしょうか。
近江商人の「荷所船」として活躍していた
右近権左衛門家もそのなかのひとりで、
9代目の時代には、廻船数11隻、
12,000両越という莫大な利益をあげる、
日本海沿岸有数の北前船主に。
邸宅は、天保時代の構えを基本に、
明治34年に建て替えられたもの。
手前(海側)に4棟の外蔵、その間に、塗籠の長屋門。
山側に本宅と3棟の内蔵、山との間は日本庭園があります。
山の中腹には、昭和10年竣工の洋館。
その裏手には蘇鉄が植えられています。
洋館の横には竹藪・・・
まるで立体庭園のような見事な景観です。
邸宅は12代のときに村に管理を委ねられ、、
「北前船主の館 右近家」として、
建物の公開と北前船の資料の展示をおこなっています。
明治12年に新造された1,360石積の
「八幡丸」の1/20の模型・・・。
港が近づくと、船後部に立てられた「船のぼり」。
「茶の実」は右近家の家紋です。
板子一枚下は地獄
・・・と言われた死と隣り合わせの廻船業。
航海の安全を祈り、奉納された船絵馬。
10代目権左衛門が生きた明治時代は、
北前船が空前の活況を呈した時代であると同時に、
大資本による蒸気船にその座を奪われ、
やがて終焉を迎える時代でもありました。
廻船業に先のないこと見取った10代目は、
廻船を西洋型帆船、さらに蒸気船に切り替え、
大量の商品を運んで運賃を稼ぐ経営にシフトします。
この10代目の商才溢れる多角経営は、
枚挙に暇がありませんが、
なかでも、有名なのは海上保険業への進出。
北前船主らの合同出資による「日本海上保険」の設立に
大きな役割を果たしたといわれます。
のちに「日本火災保険」と対等合併して
「日本火災海上保険株式会社」に。
昨年、合併した「損害保険ジャパン日本興亜」の前身のひとつです。
本宅の裏手は、斜面を利用した庭園。
丘の中腹の西洋館へは、
本宅東側から石段を登ってゆきます。
南越前町の観光サイトには・・・
設計者は、明治末期から昭和初期にかけて日本各地で洋風建築を手がけた、
アメリカ人のウィリアム・メレル・ヴォーリズ氏ともいわれている。
・・・とあります。
赤いスペイン瓦、コテ跡の残るクリーム色のスコッタ。
シャレー風のベランダや和洋折衷の造り、
タイルを多用した内装や、温かみのある階段の手すりなど、
そう言われても頷けるようなすばらしい建物ですが、
実際は設計から施工まで、大林組が請け負っています。
右近家は、竣工の2年まえにも、
神戸にスパニッシュ様式の建物を大林組に発注
・・・と案内板にありました。
階段の明かり取りのステンドグラスが泣かせます。
この建物ができた頃には、右近家は、
もうこのような帆船は所有していなかったと思うのですが、
右近家の店印「一膳箸」が、帆のうえで
誇らしげにはためいています・・・。
西洋館の裏手の菰巻された蘇鉄・・・。
ここからの日本海の眺めも、すばらしい・・・。
さらに坂をのぼると、山荘があり、
その先が四阿・・・展望台になっています。
現在の海岸線は、国道305号の拡張や
漁港の建設などで、浜はなくなっていますが、
昔は岩礁を巧みに利用した広場や
ボートハウス、養魚場が建設され、
本宅を中心に、これらが一体をなすようだったといいます。
それでも、その片鱗を感じることはできます。
今でも、この集落全体が、
ひとつの美しい景観をなしているのを感じることができます・・・。
by dendoroubik
| 2015-01-30 13:30
| 福井
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